子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を防ぐワクチンについて、厚生労働省の専門家による分科会は12月23日、接種をすすめる「積極的勧奨」を中止していた間に接種対象となっていた1997~2005年度生まれの女性を、公費での接種対象にすることを了承した。来年度に17~25歳になる人たちで、3年間は原則無料で接種できることになった。(開始は2022年4月1日を予定)
子宮頸がんワクチンは日本では2009年に承認され、2013年4月、小学6年~高校1年相当の女子を対象に、原則無料の定期接種となった。だが、接種後に体の広い範囲に痛みが出るなどの多様な副作用が報告され、政府は同年6月、無料接種は続けたまま勧奨を止めた。大阪大の研究チームのデータによると、世代ごとの接種率は94年度生まれで約55%、95~99年度生まれで約70~80%とされ、勧奨が止まってからは一気に接種率が減り、00年度生まれは約15%、01年度生まれ以降はほぼ0%になってしまった。今回、その時期に接種の機会を逃してしまった人たちに無料で接種を受ける機会が与えられるということだ。
①HPVとは
ヒトパピローマウイルス(Human papillomavirus:HPV)の略で、現在までにヒトでは皮膚に感染する型と粘膜に感染する型とで100種類以上の型が発見されている。
子宮頸がんだけでなく、手足にできるいぼもこのヒトパピローマウイルスが原因である。(子宮頸がんを引き起こす型とは異なる。) 身近にありふれたウイルスであり、どちらかというと弱いウイルスだ。だからこそ怖いウイルスでもある。
HPVは子宮頸がんと関連する型のうち、低リスク型HPVと高リスク型HPVとに分けられる。子宮頚部の細胞が高リスク型HPVに感染し、免疫力が弱くてウイルスが排出されないがために長期間感染が続いてしまうと、感染した細胞ががん化していきどんどん広がっていく。
② なぜ子宮頸がんワクチンを打つ必要があるのか
子宮頸がんは世界的に女性が罹患するがんとして、乳がんに次いで発症率死亡率ともに高いがんである。 日本国内では毎年1万1千人ほどが子宮頸がんにかかり、約2900人が亡くなっている。近年20歳代や30歳代の若年層で増加傾向であり、ちょうど出産時期と重なることから“マザーキラー”とも言われ、多くの若い女性が亡くなっている。早期発見できても、治療で子宮を摘出することもある。子宮頸部の一部を切る場合は、妊娠したときに早産しやすくなることもある。ワクチン接種をするとともに、がん検診で早く見つけることが非常に大切である。
HPVワクチン接種を国のプログラムとして早期に取り入れたオーストラリア・イギリス・米国・北欧などの国々では、HPV感染や前がん病変の発生が有意に低下していることが報告されている。またフィンランドの報告によると、HPVに関連して発生する浸潤がん(進行がん)が、ワクチンを接種した人たちにおいては全く発生していないとされている。ワクチン接種とがん検診が普及しているオーストラリアでは2028年に新規の子宮頸がん患者はほぼいなくなると予測されている。
対して日本での子宮頸がんワクチン接種率はわずか1%に満たず、現在も多くの女性がこのワクチンの重要性を知らされないまま、子宮頸がんのリスクにさらされている。実際子宮頸がんでの死亡者数は年々増加している。
自費で接種する場合は、1回あたり約1万5千円~2万円×3回接種する必要があり、合計6万円ほど掛かってしまう。対象年齢の女性は来年4月からはこれが無料で受けられるのだ。もし受ける気持ちがあるのであれば、打つのは今しかない。
③ 副作用
副反応は、軽度のものと重篤なものとがあり、比較的軽度な副反応は発熱、接種部位の痛み・腫れ、注射の痛み・恐怖による失神がある(100万回に1回程度)。頻度10%以上の副反応としては、かゆみ、注射部分の痛み・赤み・腫れ、胃腸症状(吐き気、嘔吐、下痢、腹痛など)、筋肉の痛み、関節の痛み、頭痛、疲労がある。これらは、他の注射や採血でもしばしば見られるもので、コロナワクチンとほぼ同等のものである。重篤な副反応としては、アナフィラキシー(重いアレルギー)、ギランバレー症候群(手足の神経障害)、急性散在性脳髄膜炎(頭痛、意識低下、脳神経の疾患)がある。これらは、およそ100万から400万接種に1回起こります。また持続的な体の疼痛を訴える、複合性局所疼痛症候群(CRPS)は、820万接種が行われた中で、3例が発症している。
ファイザー、モデルナ製各ワクチンによってまれに心筋炎が引き起こされる可能性があるということが最近報道されているが、子宮頸がんワクチンによって重篤な副反応が現れる確率はその確率よりも格段に低い。副作用が現れる確率のみで見ると、コロナワクチンよりも安全だと言えよう。
しかしリスクが0のワクチンはないことを承知しておかなければならず、特に重篤な副作用が現れた時には生活に大きな障害をもたらすことを忘れてはならない。ただこうした副作用のリスクを含めても、接種するメリットの方が大きいと医師たちは主張する。コロナワクチンと同じだ。コロナワクチンもリスクがあるが、メリットの方が大きく多くの人が接種している。副作用に対する不安よりコロナに感染する不安の方が大きかったからだ。
子宮頸がんワクチンによる重篤な副作用より、子宮頸がんによって死亡するリスクの方がはるかに高い。私たちが気づかなければならないのはこの点だ。私たちは副作用よりがんを恐れ、予防しなければならないと思う。
ただし、決めるのは個人だ。接種の必要性とリスク両方をよく検討し、決定してほしい。
私自身も対象期間に無料接種の機会を逃した一人だ。メディアの報道を見て、みんなも打たないのに自分も打つ必要なんてないだろうと思っていたし、このことについて誰かと話す機会もなかった。大学でHPVについての課題に取り組む前は全く気にも留めていなかった。その重要性について知って一時は自費で打つ必要があるだろうかと考えたりしたが、自費での接種は負担が大きすぎる。副作用に対する恐怖心もぬぐえなかった。だがコロナワクチンを打ってみて、副作用に対する考えが変わったのも事実だ。無料で接種する機会が与えられた今、接種が開始されるまで検討を重ねていきたいと思っている。
参考文献
https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0079.html
https://www.jsog.or.jp/modules/jsogpolicy/index.php?content_id=4
https://www.asahi.com/articles/ASPDR42X0PDQULBJ00T.html
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